スパイクのあと

加藤未央さんの大会公式レポート

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8月30日(日)

大会4日目。

 今日はいよいよ、大会最終日だ。これまで戦い続けてきたヴェルディグラウンドを離れて、決勝は西が丘サッカー場で行われる。

  準決勝1試合目はFCバルセロナvs東京都U-12となった。

 選手入場を控えてバルサの選手と東京都選抜の選手たちとがゲートのところで並んでいるところへ、しきりにバルサのコーチのオスカルが選手に向かってけしかけるように声をかけている。「動け、動け!」「とまるな!」「とまったら相手に食われるぞ!」と言っているのだ。「せっかくアップしたのに入場を待つ間にとまってしまったら、アップの意味がなくなってしまう。」そう言いながら、オスカルは選手にひたすら動き続けるよう手を叩いてけしかける。試合を目前にして、選手の表情は少しかたい。

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  バルサは後半と前半で選手をいつも5人くらい入れ替える。というのも、出場する選手を固定しないのがバルサの理念なのだそうだ。”どの選手にも同じだけ出場をさせて、同じだけチャンスを与える”、これがバルサが考える育成ということなのだ。同じ時間の中で、選手に評価が下される。

  試合はPK戦へともつれこみ、東京都U-12が決勝進出を決めた。

  準決勝2試合目はRCDエスパニョールvsU-12ベトナム代表。この試合もまたPK戦へともつれこむ空気が濃厚になったところで、エスパニョールが決定的なゴールを決めて決勝に駒を進めた。

 選手たちは勝利を喜びながらゴール裏に来ていた日本人のエスパニョールファンのところへ駆けつける。キャプテンマークをつけた6番のポル・マリン君がそれを外し力強く掲げるのを見て「あれ?」と不思議に思った。キャプテンマークには「21」の刺繍が大きく入っている。なぜ「21」なのだろうか、チームスタッフのところに行ってその訳を聞いてみた。

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 7シーズン前に、当時トップチームのキャプテンだったダニ・ハルケというエスパニョールのジュニアユースから生え抜きの選手が、遠征中に心臓発作を起こしてそのまま亡くなってしまったのだそうだ。それ以来、追悼の意を込めてキャプテンマークに彼の番号だった「21」を入れているのだとラモン・ガテル監督が教えてくれた。その出来事を子供たちも心に刻んでいる。ポル・マリン君はひとしきり力強く掲げたあと、そのキャプテンマークにキスをした。

  決勝戦は大会史上初のPK戦へともつれこみ、RCDエスパニョールが優勝を果たして今年の大会は幕を閉じた。

 大会を取材していて、日本人らしさ、スペイン人らしさ、アルゼンチン人らしさ、ベトナム人らしさ、それぞれの国の雰囲気を感じられた4日間だった。そして、その雰囲気がそれぞれの国のサッカーに反映されていたようにも感じた。この年代の子供たちにとってその違いが交差することがどれだけ意義深いものか……それは子供たちの表情が物語っている。

8月29日(土)

大会3日目。

 今日は朝から雨。霧のようなシャワーがしきりに降り注ぐ。本日最初の試合を控えているFCバルセロナのセルジ監督はピッチを見なががら「Bad Weatherだね」なんて渋い顔をしながら言うけれど、濡れてスリッピーになったピッチをバルサが得意としていることは私でも知っている。今日の試合はスピードが上がりそうだ。

  決勝トーナメント1試合目、人工芝では、FCバルセロナvs浦和レッズが行われた。

 バルサは初日から比べると日ごとにコンディションが上がっていくのが目に見えてわかる。一つの大会中でコンディションをマネージメントするのはとても重要なことだとセルジ監督は話す。子供たちのピークをどこに持っていくかを整えるのもコーチの大事な役割なのだ、と。

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 準々決勝ベトナムvs大宮の試合は、試合終了間際にPKを獲得した大宮がそれを決めて同点とする。ベスト4をかけてのPK、キッカーは三人だ。一人目は両チームとも成功。二人目の大宮のシュートをベトナムのGKが好セーブで阻み、1-2。三人目のキッカーも決めて結果は2-3でベトナムの勝ち上がりが決まった。赤いユニフォームを着たベトナムの子供たちが一斉に集まって喜んでいる。Jリーグのチームがベスト4に残れなかったのは残念だけれど、このベトナムの子供たちの喜んでいる姿はかけがえのないものだ。

 ベトナムの子供たちは、会場にいる中でも礼儀の正しさが一際目立っている。少しはにかみながらにこっと挨拶をしてくる子供たちに、こちらまで自然と笑顔になる。明日の準決勝の対戦相手は、やんちゃ盛りのエスパニョールに決まった。

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 大会3日目にもなると、子供たちがずいぶん慣れてきた様子でチームの垣根をこえて遊んでいる姿が見られるようになってきた。サッカーってボールがあれば言葉はいらないってよく聞くけれど、まったくその通りの光景だ。ちなみにこの日子供たちの間で流行っていたのは、手押し相撲。

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 ブレイズ熊本の子供たちは予選でバルサとの対戦が決まってたので、負担ができるだけ少ないように行きは選手だけ飛行機で来たと野元監督が話してくれた。復路は監督自らハンドルを握ってここまで来た車に子供たちを乗せて、はるばる熊本まで帰るのだという。ブレイズの子供たちにとって最高の夏休みの思い出になったに違いない。

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 大会は残すところあと1日。ベスト4のカードはFCバルセロナ、東京都U-12、RCDエスパニョール、U-12ベトナム代表に決まった。

8月28日(金)

大会2日目。

 今日は昨日とうって変わって朝から肌寒い。FCバルセロナのテクニカルコーチのオスカルは昨日「今日は暑過ぎるね。雨が降らないかな。」と困った顔をしながら笑っていた。今日はサッカーをするにはちょうどいいお天気なのかもしれない。

  アルゼンチンのデポルティーボ・カミオネーロスは、この日も”我が道をゆく”スタイルだ。相変わらずギャラリーを巻き込みながら「アル、ゼン、ティーナ!!アル、ゼン、ティーナ!!」とかけ声を上げながら大いに盛り上がっているし、試合中は監督よりもテクニカルコーチの方がピッチのライン際ぎりぎりまで出て審判に何度も注意をされているけれど、そんなことはちっとも気にする様子もなく、ひたすら会場に響き渡るほどの怒声にも近い声で選手たちに檄を飛ばしている。

  カミオネーロスの試合を見ていると、”この一戦に人生の全てを懸けている”という言葉がふさわしいように感じてしょうがない。監督は会見で「私たちがアルゼンチンから30時間という長い道のりをかけて来たのは、ショッピングではなくこの大会で勝つため。アルゼンチンは常にサッカーじゃなく勝つためにプレイをしている。勝者のメンタリティがある。」と話していた。その時も、たぶん今も、その意味は私にはきっと理解できないんだと思う。けれどこの試合、カミオネーロスvs大宮アルディージャ ジュニアでその言葉の意味を目にした瞬間があった。

  試合開始早々に先制しながらも追いつかれたカミオネーロスは、後半の残り時間も少なくなって来た時に逆転弾を決める。ゴールを決めたと同時にベンチにいた選手やコーチたちが一斉にピッチに飛び出してきて、お互い抱きしめ合いながら喜びを爆発させる。ゴールを決めた6番のアルセ・セリアス君も仲間と抱き合いながら喜んでいた。W杯で優勝したかのような喜びかただな~なんて思っていたのも束の間、驚いたのは次の瞬間だ。そのアルセ君が泣いて喜んでいたのだ。この大会の、この試合に、それだけのモチベーションで臨んでいるのはアルセ君だけじゃないことは見ていてわかる。このチーム全体が同じ気持ちを持ってこの大会に参加しているのは伝わってくるからだ。ただ、ここまでの気持ちを持って試合に臨んでいたことに私は驚いてしまった。監督が言っていた「勝利のメンタリティ」が、形となって私たちの目に映ったように思えた瞬間だった。

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8月27日(木)

大会1日目。

予報でのお天気模様はどこへやら、太陽が照りつける中
U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジは幕を上げた。

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開幕戦は、
FCバルセロナvs川崎フロンターレ U-12
名古屋グランパス U-12vsブレイズ熊本
の2試合だ。

初戦の川崎フロンターレ U-12戦を控えたFCバルセロナの小さな戦士たち。
コーチの話に真剣に耳を傾ける。

この日一番のギャラリーが集まったのは、この試合。
人工芝のグラウンドを大勢の観客が取り囲んで観ていた。

 

 

DSC03111同じスペインでも、バルサと全然違うチームの雰囲気を放っているのは
RCDエスパニョールの選手たち。

 積極的に日本のチームの子たちに話しかけては楽しそうに騒ぎながらコミュニケーションをとっていたのがとても印象的だ。

 

 

 

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アルゼンチンのチーム、カミオネーロスは応援からして独特のパワーがある。

試合中に監督よりも前に出てひたすら指示を送っているのは、テクニカルコーチだ。こういうアツくなっちゃうところは南米チームならではの雰囲気だろう。選手の表情を一つとっても、ハングリーさがとにかく伝わってくる。

 

 

 

DSC03081会場ではやはり一番人気者のバルサの子供たち。

常に「バルサ」の一員であることを意識して振る舞うように教育されている彼らは、笑顔でサインや写真、握手に応じている。すでに一流の選手としてのメンタルを持っているのだ。

世界の差を感じた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

8月26日(水)

大会前日記者会見

今日は、U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジ2015の開幕に向けて、メインスポンサーでもある大和ライフネクスト株式会社内にある一室で前日記者会見が行われた。

会見場の目の前の廊下の壁がガラス張りになっていて、その向こう側には吹き抜けの中庭が見える。

 今大会に出場する16チームのうち、海外から参加するチームはRCDエスパニョール(スペイン)、U-12ベトナム代表(ベトナム)、デポルティーボ・カミオネーロス(アルゼンチン)、そしてFCバルセロナ(スペイン)の4チームだ。

 会見に出席したのは、そのうちの3チームとJリーグのユースチーム。

 向かって左からデポルティーボ・カミオネーロスのホルヘ・ルベン監督、RCDエスパニョールのラモン・ガテル監督、大和ライフネクスト株式会社代表取締役社長の渡邉好則氏、FCバルセロナのセルジ・ミジャ監督、川崎フロンターレU-12の佐原秀樹監督という顔ぶれが並んだ。

 Q:この大会に向けて

 ホルヘ・ルベン監督(カミオネーロス)「アルゼンチンという国はここから約30時間も離れたところで、長い道のりをかけて来ている。FCバルセロナやRCDエスパニョールというような素晴らしいチームと対戦できるのはとてもいい経験であり、この大会で全てを出し尽くしたい。」

ラモン・ガテル監督(エスパニョール)「(会見当日の)今朝着いたばかりで選手たちも疲れているけれど、しっかり休憩をとって明日からいいプレイができるように準備をして、みなさんにお見せしたい。このような素晴らしい大会に参加できて嬉しく思っている。」

セルジ・ミジャ監督(バルセロナ)「我々はバルセロナを代表して日本に来た。この大会に参加できて嬉しく思っている。自分たちの国から遠く離れた国で行われる大会を経験できるのはとても大きなこと。経験はもちろん、明日からいい試合をしたいと思っている。」

佐原秀樹監督(川崎F)「川崎フロンターレとしては過去2度出場し、今まで一度もバルサと対戦する機会がなかった。そういった意味でも明日の開幕戦は念願の試合(初戦はFCバルセロナとの対戦)。選手自身もすごく興奮している。ダノンカップ日本大会で優勝したので10月にモロッコで行われるダノン世界大会に向けて日本代表として出場するにあたり、この時期に世界トップレベルのチーム・選手と対戦できるということはすごくいい経験。明日から4日間、なるべく最終日まで試合ができるように楽しみながら全力で戦っていきたい。」

 

Q:今大会でそれぞれのチームが持っている目的と、注目の選手

ホルヘ・ルベン監督(カミオネーロス)「先程も言ったように、アルゼンチンから30時間という長い道のりをかけて来ている。ショッピングに来ているわけではなく、この大会で勝つために来ている。アルゼンチンは、常にサッカーじゃなく勝つためにプレイをしている。勝者のメンタリティがある。注目の選手は、CBのマルティーニ、FWのモジャーノ。この2人はうちの主力。」

ラモン・ガテル監督(エスパニョール)「プレシーズンを終えてすぐにこの大会に参加したという形。サッカーのスタイルが7人制から11人制に変わったというところで、非常に大きな変化がチームに起こっている中でのこの大会なので、この後のシーズンに向けてとても重要な大会になっている。そういった意味でもとても楽しみ。23人でエスパニョールであって、一つのチームとして来ている。みなさん自身で試合を見て好きな選手を見つけてほしい。」

セルジ・ミジャ監督(バルセロナ)「我々も、7人制から11人制に変化した点が大きい。この新しいカテゴリーになってから今のところ練習は6回、練習試合は2試合しか経験ができていない。今大会のバルサの目的は、サッカーのスタイル・解釈が異なる他のチームと対戦できるということで、それが大きな経験になると思っている。戦い方が慣れてないチームと対戦した時に、どういったプレイを選手がしてくれるのか。もちろん、いい経験というだけでなく、大会なので勝ちにいきたい。私たちはバルサとして来ている。その中で、経験を積んでいいチーム作りのスタートを切れたらと思っている。メッシやイニエスタなどがバルサにはいるけれど、彼らも自分たちで言うように、バルサとは個人ではなくチームの力で戦っている。この年代でももちろんそうで、個人ではなくチームの力。みなさんの判断で、良い選手を見つけてほしい。」

佐原秀樹監督(川崎F)「リアクションサッカーはしたくない。常にボールを保持しながら主導権を握れるような戦い方をしていきたい。ダノンカップでも自分たちが主導権を握りながら試合を進めてきたし、明日からの試合もしっかりといつも通りのサッカーをできるように。ただ、素晴らしいチームがたくさんいるので、ボールを保持される時間が長かった場合は(対策を)試合中に考えます(笑)。注目選手は、ダノンカップでMVPをとったCBの甲斐翔大、FWの五十嵐太陽。他にもたくさいるので、是非色んな選手に注目してほしい。」

会見を終えると、中庭に続々とカミオネーロス、エスパニョール、そしてバルセロナの選手たちが集まって、大和ライフネクストの渡邉社長より一人一人に手渡しで「やかん鈴」という名のお守りが渡された。「幸せを湧かして、注ぐ。」という素敵な思いが込められたこのお守りも、選手とはいえ小学生の手にかかれば振り回したり音を鳴らして遊んだり。こういった表情はとても子供らしい幼さを感じるけれど、明日からの試合となるときっとそれは一変する。選手としての彼らの姿を楽しみに思い、少しだけ怖くも感じてしまう。さぁ、いよいよ開幕だ。

 

 

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加藤未央(かとう・みお)

1984年1月19日生まれ、神奈川県出身。2001年に「ミスマガジン」でグランプリを獲得し、05年には芸能人女子フットサルチームにも所属。07年から09年まで「スーパーサッカー」(TBS)のアシスタントを務め、Jリーグや海外サッカーへの知識を深めた。09年から15年までスカパー! のサッカー情報番組「UEFA Champions League Highlight」も担当。現在は、ラジオ番組「宮澤ミシェル・サッカー倶楽部」などに出演、フットサル専門誌「フットサルナビ」でも連載を持っている。15年4月からオフィシャルブログ「みお線」もスタートした。http://ameblo.jp/mio-ka10/