加藤未央の大会公式レポート

加藤未央の大会公式レポート Vol.5
大会4日目(最終日)


大会4日目を迎えました。毎日いろんな出来事がつぎつぎに起きるので3日前のことを随分昔のことのように感じますが、今年のジュニアサッカーワールドチャレンジ2017も残すところ準決勝、3位決定戦、そして決勝の4試合となりました。

この日最初の試合は、準決勝バルセロナ対名古屋。

今大会で、ひょっとしたら「今年のバルサはあまり強くない」との前評判を耳にした人もいるかもしれません。実際、今年のバルセロナはクラブ内でも他の世代と比べて実力が落ちると評価されています。そして、そのことを子供たち自身も理解しているシビアな世界なのです。それゆえ今年のバルセロナは世界最高峰のクラブのエンブレムを胸につけながらも常に挑戦者としてこの大会に挑んでいて、一試合一試合を全力で戦っています。「試合に対するインテンシティは一番強いと思います。」と、バルセロナのチームをアテンドしているスタッフの方が教えてくれました。

子供たちの気迫と緊張が見ているこちら側にも痛いほど伝わってきます。負ければここで終わりの勝負、両チームとも譲れません。

緊張をひきずったまま両チームとも試合に入りましたが、次第にペースを掴んできたバルセロナがチャンスを得点につなげます。前半終了時点で3対0。「取り返そう!!!」「まだまだやれる!」名古屋のベンチから力強い声が聞こえてきます。しかし、後半になっても試合がひっくり返ることはなく、さらにバルセロナが追加点を決めて決勝の舞台へと駒を進めました。

「人生で『バルサ』と名のつくチームと戦うのなんて、この先ないかもしれない。そんなチャンスを楽しんでやろうということが第一でした。また、自分たちの実力がどこに位置するのかを知る良い機会。そんななかで自分たちの力を出し切ること。勝ち負けといった結果はその次に考えています。」と試合後に話してくれたのは、名古屋の高橋和幸監督。「バルサとの試合ということで緊張が出てしまって、本当はもう少し実力を出せればよかったんですけどね。」と、少し悔しそうな顔をしながら目を細めて笑って話す監督から、子供たちに全力を出させてやりたかったという思いが伝わってきました。

続く準決勝第二試合目は、大宮アルディージャジュニア対東京都U-12。昨年のファイナリストと一昨年のファイナリストというカードです。

試合前に、大宮の子供たちが監督・コーチを交えていつも通り円陣を組みます。森田浩史監督が「やれるか?」と静かに子供たちに問いかけると、それに応える子供たち。チームの心をひとつにして試合への準備を完成させます。

決勝トーナメントは、負けたらそこで終わり。子供たちの緊張も一層高まり、動きが硬く感じることもしばしばあります。「びびってる?」と試合中の子供たちに笑いながら声をかけてリラックスを図るのは東京都U-12の井上雅志監督。さまざまなクラブから集まった子供たちによって作られるチームをまとめ上げるのは、簡単なことではありません。

前半が終わり、後半に入ってもお互いに譲らない試合が続きます。拮抗を破ったのは後半13分、大宮の10番、種田陽くんのゴールでした。一斉に歓喜する大宮の子供たち。スタンドからオレンジのユニフォームを着て見守る親御さんたちからひときわ大きな歓声がわきます。ピッチサイドに立つ森田監督も力強くガッツポーズ。しかしその直後に東京都の19番、吉荒開仁くんがゴールを決めて試合を振り出しに戻し、さらに1分後、東京都の10番寺澤公平くんが今大会で8得点目のゴールを決めて試合を結しました。

試合終了のホイッスルが鳴り響き、ピッチにしゃがみ込む大宮の子供たち。すかさず森田監督が「最後までしっかりしなさい」と声をかけます。グッと涙をこらえながら、東京都のベンチの前で綺麗に列を成して「ありがとうございました!」最後の挨拶をしました。涙を浮かべながらも綺麗におじぎをして相手に感謝を伝える子供たちの姿も、この大会の大きな財産に思えてなりません。間違いなく心に残るシーンです。

ピッチからスタンドを見渡すと、大勢のお客さんが入っていることに気がつきます。そんな大勢のお客さんに見守られながらついに決勝戦が始まりました。

個の能力は違っても、力の差をあまり感じさせない試合に息をのみます。両チームともに1点ずつ得点を重ねても子供たちの厳しい表情はくずれません。このまま試合終了でPK戦かー?バルセロナの子供たちに焦りが見えます。そんなことが頭に明確に浮かんだ残り時間もあと数十秒というところで、バルサの12番アマドゥ・バルデくんが放ったシュートが吸い込まれるようにゴールネットへと入っていきました。一斉に歓喜するバルセロナの子供たち。必死になって勝ち取った「優勝」でした。

表彰式の時、2位の東京都の子供たちのためにバルサの子供たちが花道を作りました。実力を認めた時に作るそれは、彼らをギリギリまで追い詰めたことを認めた証なのです。

この大会は今年で5回目、バルセロナは4回目の優勝となりました。それでもその年の子供たちにとっては人生の中でたった一度きりのチャンスなのだということを試合を取材していると痛感させられます。その掴んだチャンスを最後まで積み重ねたチームが、その年のチャンピオンとなれるのです。

人生の中でたった4日間の出来事ですが、参加した子供たちにとってはきっと深く記憶に刻まれる時間だったことでしょう。だって、あの夢の”FCバルセロナ”と一緒に戦った4日間だったのですから。

加藤未央の大会公式レポート Vol.4
大会3日日


大会3日目。この日の注目はなんといっても決勝トーナメントに勝ち進んだ8チームによる準々決勝です。

対戦カードはFCバルセロナ対湘南ベルマーレスクール選抜、ガンバ大阪ジュニア対名古屋グランパスU-12、福山ローザス・セレソン対大宮アルディージャジュニア、SOLTILO WORLD SELECT対東京都U-12という組み合わせになりました。

優勝候補であるバルセロナの試合になると、おのずとグラウンドが大勢の観客で囲まれます。子供たちだけにとどまらず、大人もそわそわとした面持ちで固唾をのみながらピッチに目線を送っていました。

試合前に必ず毎回発せられる彼らの掛け声は、スペイン語ではなくカタルーニャの言葉。円陣を組んだ中心にゲームキャプテンがしゃがみ込んで、リードします。「準備はできてるか?!」「おー!」「パン、ワイン、そしてお母さんに感謝を捧げて戦いに挑むぞ!バルサ!」といった内容の掛け声です。トップチームは基本的にやりませんが、下のカテゴリーはこれをやるのが恒例だとバルサの監督が教えてくれました。

力強く掛け声を言い終わったと同時に、彼らの顔つきが一斉に変わります。この準々決勝では、これまでの3試合と違ってさらに気合いと緊張が強く入り混じっていました。負ければそこで敗退。世界のトップクラブのプライドをかけて、絶対に負けられない試合が始まろうとしています。

対するは、湘南ベルマーレスクール選抜の子供たち。「やるぞ!」「絶対に勝つぞ!」と各々声を出し、試合前の気持ちを作っていきます。「バルサと試合するのはとても楽しみ」と子供たちは無邪気に話しながらも、ひとたび試合となると真剣そのもの。自分たちの勝利だけを強くイメージして、いざ試合開始です。

天気予報に反して、晴れ渡った空から注ぐ光でこの日も猛暑のなか試合です。前後半各1度ずつ設けられた給水タイムですがそれだけじゃ間に合わず、試合の途中でピッチッサイドに走ってきて水を補給するというシーンを何度も見かけました。見ている方でさえピッチにいるだけで体力を奪われるほどの暑さです。そんな中で戦っている選手たちの体力の消耗ははかり知れません。

試合の結果は、2対0でバルセロナの勝利。決勝の地・西が丘への切符を手に入れました。

昨年の大会で決勝まで勝ち進んだ大宮アルディージャジュニアと戦うのは、広島からこの大会にやってきた福山ローザス・セレソンの子供たち。同じグループのアーセナルFCや鹿島アントラーズジュニアを抑えて挑む準々決勝です。

試合開始早々に大宮が立て続けに得点を決め、気づけば5分経過時点で3対0。その流れが変わることはなく、結果は8対1で大宮が明日へと駒を進めました。

福山の10番石井久継くんは、この大会で今まで戦った試合のすべてでゴールを決めています。この日も順位決定戦を含め、全ての試合で得点をするという偉業を成し遂げました。

名古屋グランパスU-12、東京都U-12もそれぞれ準決勝進出を決め、ベスト4の顔が出揃いました。
バルセロナの子供たちは、試合後に東京観光へ繰り出しました。浅草の浅草寺にてチームで引いたおみくじは、なんと「大吉」!子供たちも優勝するぞと大喜びです。果たしてその結果はいかに?!注目の大会最終日がいよいよやってきました。

加藤未央の大会公式レポート Vol.3
大会2日日


大会2日目が始まりました。

昨日を上回る太陽の光がヴェルディグラウンドを照らしつけます。これほど暑いと、体調管理にもより気を配らなくてはいけません。子供たちの持ってくる水筒の大きさも心なしか大きくなっているように見えます。

試合がはじまると、この日もグラウンドに「ゴーーーール!!!!」のアナウンスが轟きます。この声の主は福田浩大さん。その高いテンションの「ゴール!」が面白くて、子供たちも福田さんの声が聞こえるたびに楽しそうに真似をして盛り上がっていました。子供たちにとっては一試合、一ゴールがとても特別なものなはずです。それに加え、ゴールをして自分の名前を呼ばれる経験なんてきっとなかなかないはず。福田さんの声が、この大会をよりスペシャルなものにしてくれています。

試合が終わり、選手同士手を繋ぎながらアイリスFC住吉のベンチへ挨拶しに行ったのは、中国から来た広州富力足球倶楽部の子供たち。「ありがとうございました」とお辞儀をしながら日本語で挨拶する姿は、この大会ならではの心温まる風景です。

試合中、真剣なのは子供たちだけではありません。コーチの熱のこもった指示がピッチに響き渡ります。

予選リーグ3試合のうち、周囲の予想と反して2試合消化時点で2引き分けという結果のアーセナルFC。予選リーグ最終戦を目前に立てた目標は、「母国へ『負けなし』という結果を持ち帰ること!」でした。対するは既に決勝トーナメントへの勝ち抜けを決めている福山ローザス・セレソンです。

慣れない日本の暑さゆえ、試合中にピッチ上でGKが倒れ込んでしまったことから失点という不遇なアクシデントがあったアーセナルでしたが、子供たちはそんな事態も冷静に乗り越える強さを発揮し、結果は5対1。今大会で初めての勝利を飾りました。

この試合で3得点を決めた9番のウィル・ランクシェア君は、監督曰く「アーセナル下部組織の中でもトップクラスのストライカー」の実力の持ち主とのこと。試合後、「勝ち点3を獲得できて良かったし、得点もとれて嬉しい。日本人はナイスというイメージは変わらないけれど、フィジカルコンタクトが強いのと、プレイにラフなところがあるのが意外だった。」とウィル君が話してくれました。トップチームとなると世界をフィールドに試合をするアーセナルにとって、この世代から様々な環境を経験するということが彼らの一番の糧になると監督は考えているようです。

インタビューに丁寧に答えてくれて、写真も数枚お願いするとニコニコと丁寧に応じてくれたウィル君。試合中は闘志むきだしで大人びた表情ですが、試合が終わった途端にあどけない表情へ戻るのは世界共通のようです。

2日を通して行われた予選リーグを終えて、決勝トーナメントに勝ち上がったチームはFCバルセロナ、湘南ベルマーレスクール選抜、ガンバ大阪ジュニア、名古屋グランパスU-12、福山ローザス・セレソン、大宮アルディージャジュニア、SOLTILO WORLD SELECT、東京都U-12に決まりました。いよいよ大会も佳境に入ります。

加藤未央の大会公式レポート Vol.2
大会初日


ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017が始まりました。
大会の会場は東京ヴェルディグラウンド。隣に遊園地を望みながら、人工芝と天然芝の2面にて試合が行われます。

開幕戦は、人工芝がFCバルセロナ対清水エスパルスU-12、天然芝がサガン鳥栖U-12対ワールドチャレンジ街クラブ選抜というカード。第1試合前のゲームを控える人工芝のピッチは、まだ朝の9時過ぎだというのに芝の上に陽炎が立ちのぼっていました。

バルセロナ対清水の試合の前に、先日のバルセロナで起きたテロ事件の被害者を偲んで、センターサークルに子供たちが集まり黙祷が行われました。国が違ったり言葉が通じなくてもサッカーを通して世界と交流すること、思いやること、助け合うことを教えられる瞬間です。

FCバルセロナの試合は、大会に参加している日本の子供たちにとっても楽しみな試合。試合前になるとグラウンドの周りを子供たちがぐるっと遠巻きに囲い、熱い視線をピッチに向けます。
「自分たちから仕掛けていくぞ!」と意気込む清水の監督。夢のバルセロナを前にして子供たちからも気合いが伝わってきました。

東京はこれまで降り続いた連日の雨とは打って変わり、大会の期間中はどうやら晴天に恵まれそう。試合の始まる前のピッチサイドに座っているだけで、熱気が顔にまとわりついて洋服の中までじっとりと汗で湿ってくるのがわかります。そんな猛暑の中でも、子供たちは頰を赤らめながら真剣な表情を崩すことなくピッチを駆け巡ります。

初出場のダニーデン テクニカルはニュージーランドから参戦です。初戦の相手は東京都U-12。ホイッスルが鳴る前に陣を整えて、ニュージーランドのマオリ族の民族舞踊・ハカを披露してくれました。

日本はただいま夏真っ盛りで気温も湿度も高くなっていますが、ニュージーランドの季節は冬。前半が始まってから間も無くして、ダニーデンテクニカルの子供たちの足が重くなるのが伝わってきます。この試合でハットトリックを決めた東京都U-12の背番号10番寺澤公平君は、海外のチームと戦うのはこれが初めて。「パス回しとか、日本と違った」と試合後に話してくれました。

日本の子供たちにとってはもちろん、参加している世界各国の子供たちにとってものこの大会を通して日本や他国のことを学べる良い経験にきっとなるでしょう。サッカーだけじゃなくスマホを通して交流する姿がスタンダードなのも、この年代の子供たちにとっては世界共通かもしれません。

明日は予選リーグ2日目。決勝トーナメントへの進出をかけて、さらに熱い試合が続きそうです。

 

加藤未央の大会公式レポート Vol.1


いよいよ今年もやってきました。ジュニアサッカーワールドチャレンジ2017がはじまります。今大会は今年で5回目の開催、私自身は3年目の取材になります。

年々規模が大きくなっているこの大会ですが、今年はスペインからFCバルセロナの他にニュージーランドからダニーデン テクニカル、中国から広州富力足球倶楽部、イングランドからアーセナルFC、アメリカからパテアドーレスが海外組として参加します。
また、全国の街クラブに所属している子供たちのセレクションを行い、選ばれた23人で「ワールドチャレンジ 街クラブ選抜」チームを結成。イレギュラーなチームではありますが、事前にスペイン合宿を行うなどして大会に向けて強化を図ってこの大会に備えています。

昨日、大和ライフネクストの本社にて記者会見が行われました。登壇したのは大宮アルディージャジュニア、アーセナルFC、FCバルセロナ、ワールドチャレンジ街クラブセレクション選抜の4チーム。大会初出場となるアーセナルFCのサイモン・コプリー監督は、「日本の文化に触れたり日本の選手と戦うことが、子供たちにとって良い経験になる。」とコメント。
FCバルセロナのダビッド・サンチェス監督は「参加する日本の選手や対戦するチームにとっても素晴らしい経験となるよう、われわれも全力で戦う。この1週間を楽しみたいと思っているよ。」と大会直前の意気込みを聞かせてくれました。

前日にはバルサスクールの子供たちとたっぷり3時間半かけて練習試合を行ったバルサの子供たち。監督をはじめ昨年から一新した顔ぶれの彼らの活躍に期待しながら、参加する全24クラブそれぞれの濃密な4日間がいよいよスタートします。

加藤未央(かとう・みお)
1984年1月19日生まれ、神奈川県出身。2001年に「ミスマガジン」でグランプリを獲得し、05年には芸能人女子フットサルチームにも所属。07年から09年まで「スーパーサッカー」(TBS)のアシスタントを務め、Jリーグや海外サッカーへの知識を深めた。09年から15年までスカパー! のサッカー情報番組「UEFA Champions League Highlight」も担当。現在は、ラジオ番組「宮澤ミシェル・サッカー倶楽部」などに出演、フットサル専門誌「フットサルナビ」でも連載を持っている。また、ソーシャル経済ニュースメディア「NewsPicks」ではプロピッカーとして活動、スポーツオールジャンルのニュースメディア「VICTORY」でもプロクリックスとして活動している。15年4月からオフィシャルブログ「みお線」もスタートした。 http://ameblo.jp/mio-ka10/