加藤未央の大会公式レポート

加藤未央の大会公式レポート Vol.3
大会最終日


大会最終日。
ホテルを出発したFCバルセロナのバスは、本日の会場、万博記念競技場へ向かいます。出発して間も無くコーチが子供たちに「カンタ!(歌って)」と声をかけると、子供たちがひとりふたりと歌い始め、そのうちに大きな歌声になりました。バルサのバスに乗って取材をするのも今年で4回目になりますが、いつもは子供たちの声でガヤガヤと騒がしかったり、急に大きな声で合唱し出して手やバスの屋根をドンドン叩いたりといったお祭り状態なのですが、今年のバルサの子供たちはそれと比べると大人しい様子です。

バスが会場に到着し、連なって降りていく子供たち。すぐさま日陰を見つけて一斉にそこへ避難します。朝の9時前だというのに、日に当たる皮膚がすでに痛く感じます。今日はまた一段と暑そうなので、体調の管理に注意をしなくてはいけません。

試合が始まる前、天然芝のピッチに一斉に水がまかれました。大きな弧を描きながらピッチ全体に水がまかれている中、子供たちが試合前のアップを始めます。天然芝ならではの草のかすかな匂いと少しの湿り気のある温度に心地よさを感じながら、今日で大会が終わるという緊張感に集中をします。

準決勝1試合目は、クラブ・ティフアナ対FCバルセロナ。
「メヒコ!(メキシコ)メヒコ!」と、観客席の方から大きな声援が送られます。声の主は、クラブ・ティフアナの子供たちの家族だけでなく、試合を観に来た日本人の子供たちもたくさん入り混じっています。大会を通じて知った応援の楽しさが、ピッチに届く大きな声援に比例しているようでした。

試合はなかなか決着がつかず、0対0のままPK戦へと突入です。祈りを捧げるティフアナの子供たち、見守るバルサの子供たち。ベンチからそれぞれの姿がピッチに視線を注ぐ中、6人目のPKでバルサが決勝進出を決めました。

ピッチの内外でバルサの子供たちは一斉に喜びを爆発させます。そんな姿を横目にチームメイトとのハイタッチも避け、真っ先にベンチから静かにセンターサークルへと歩いていく一人のバルサの選手がいました。そして、ピッチにうずくまるティフアナの選手の肩を抱き、ひとりひとりに声をかけます。しばらくそれを繰り返したあと、彼はまた静かにベンチの方へと戻って来ました。
「喜びすぎず、相手に敬意を払う」ことを大事にしているバルサのこういった姿は、すでにこの年齢にして体得されつつあるのです。
「今は戦術の教育よりも、バルサの選手としての立ち振る舞いや人間力などといった精神面での教育をとても大事にしている」と、2年前にバルサのインファンテルB(大会に参加しているU-12のカテゴリー)の監督として来日しチームを率いていたセルジ・ミラ監督が言っていた言葉を思い出しました。

続く準決勝2試合目は、JFAトレセン大阪U-12対アーセナルFCのカードです。
試合前、選手たちが座るベンチの屋根に、緑色の恐竜のぬいぐるみがアーセナルのスタッフの手により置かれました。チームスタッフに聞いてみると、どうやらこのぬいぐるみは「ガナーザウルス」という名前とのこと。アーセナルの愛称である「ガナーズ」と恐竜の「ダイナソー」から由来しているガナーザウルスは、毎試合一緒なのだと教えてくれました。すでに2回の優勝をもたらしているというガナーザウルスが見守る中、試合開始のホイッスルが吹かれます。

開始早々にアーセナルの12番、ウィリアム・ラニン・スィートくんがゴールを決めます。序盤は押されがちだったトレセン大阪も徐々にペースを掴み、後半ついにPKを獲得。6番の坂上宗太郎くんがそのチャンスをきっちり決め、アーセナルに追いつきます。
同点になった後もトレセン大阪の勢いは止まらず、思わず取材の手が止まるほど。ピッチから目が離せません。それでも追加点には結びつかず、1試合目に続きこの試合もPK戦へと突入となりました。

PK戦を制したのは、アーセナルFC。戦い抜いたトレセン大阪の子供たちの目からは大粒の涙がポロポロとこぼれ落ち、苦しい表情を浮かべています。今大会を観る人たちの間では「今年のアーセナルは強い」と話題になっていました。そんな彼らをあと一歩というところまで追い詰めたトセレン大阪の子供たちの悔しさは、一際大きかったことでしょう。

「日本のチームで残っているのは自分たちしかいないので、日本のみんなの気持ちを背負って全員で一丸となって戦いました。」と、試合後のインタビューに答えてくれたのは、キャプテンの村上樹くん。
「(このチームの特徴は)オフザピッチでもチーム一つとなり、笑ったり、でも練習のときは厳しく、皆がやりがいを持っています。」と大人顔負けのコメントをする村上くんの夢は、いま所属しているセレッソ大阪のトップチームの選手になって、そこで3冠を獲ること。
ロッカールームに戻った子供たちひとりひとりに中村晋祐監督が声をかけます。涙のあとが残る子供たちを前に、監督も苦しそうな表情をにじませます。しかし、大会はこれで終わりではありません。「まだ3位決定戦がある。しっかりと戦っていこう。」監督だからかけられる言葉を、子供たちに送ります。

決勝のカードは、FCバルセロナ対アーセナルFC。
試合前に、ピッチサイドに優勝カップが飾られました。その後ろでアップをする両チームの選手たち。ピッチにまかれる水しぶきの中から鮮やかな虹が浮き出て、まるで優勝カップにつながっているようでした。このカップを手にするのはどちらのチームでしょうか。今大会も残すところ1試合となりました。試合開始のホイッスルが吹かれます。

前半早々、アーセナルの10番イーサン・ナワニリくんが相手DFを綺麗に崩してゴールを決めます。しかしすぐにバルサの23番ブライアン・ラミレス・ラミレスくんが同点弾を決め、試合は振り出しに。続きざまにアーセナルは追加点を許し、バルサが逆転をします。

今大会で必ず盛り込まれている給水タイムでは、わずかな時間ながらも選手たちが一様に水を頭や首にかけてクールダウンをはかります。暑さと戦いながら行われる試合はいかに体力を消耗するかが伝わってきます。

前半終了間際、バルサはさらに追加点を決めます。左サイドから打たれた9番マルク・ギウ・パスくんのシュートが逆のポストに跳ね返り、そのままゴールネットを揺らしました。「今までのバルサが嘘のようだ」と、試合を観ている人たちがざわめきます。この年齢の子供たちは、ひとつの試合を経るごとに全く違うチームへと生まれ変わることがよくあります。いま目の前で試合をしているバルサは、まさにそれでした。

アーセナルが追加点を決めることなく、試合は残り7分。3対1というスコアで勝利を悟ったのか、バルサのベンチでは優勝の準備に入りました。キャップの開いたペットボトルを両手に抱えたバルサベンチの子供たちは、その瞬間をニコニコと笑顔を浮かべながら待ちます。

試合終了。歓喜と涙が混在する瞬間です。
うずくまるアーセナルの選手たちの中でも、最後まで顔をあげられなかったのは、この試合で先制点を決めた10番のイーサンくん。バルサの選手やチームスタッフ、仲間から代わる代わる声をかけられながらも、その場から動けずにいました。バルサが勝利に沸く中、センターサークルに集まったアーセナルの子供たちにアダム・バーチャル監督は声をかけます。「君たちはこれで終わりじゃない。次のステップへ進む経験だ。顔をあげて優勝したバルセロナを称えよう。」子供たちの目線に腰を落としながら戦い抜いた子供たちにそう語りかけるアダム監督の姿と、監督の言葉に一生懸命耳を傾けるアーセナルの子供たちの姿に、取材している私まで涙が溢れるのを止められませんでした。

優勝をすることは、多くの人の記憶とともに記録にも残ります。ただ、この大会を通じて感じることは、勝つことだけが「良い結果」ではないということ。多くの国、ひいては文化の違いを身をもって感じるというこの大会ならではの経験をしながら、子供たちは多くのことを吸収していくのだということを感じます。それと同時に、そんな子供たちの姿を近くで見るチャンスを与えられた私たち大人もまた、彼らを通じてたくさんのことを学ぶ数日間となりました。

FCバルセロナの優勝で幕を閉じた今年のジュニアサッカーワールドチャレンジ2018。来年はどんなチームが出場し、どんな子供たちのドラマが待ち受けているのでしょうか。次の大会まで、あと1年です。

加藤未央の大会公式レポート Vol.2
大会1日目


天気予報では、今日関西を直撃する台風の話題で持ちきりです。
痛いほどの日差しを浴びながらも、時折ポツポツ降ってくる雨と体を押し出すほどの強い風が、台風の訪れを予感させます。今年の大会会場はOFA万博フットボールセンター。初の大阪開催ですが、1試合目が始まる前から人で混み合っています。年々この大会が注目度を増していることを実感する光景です。

開幕戦は、サンフレッチェ広島F.C.ジュニア対SOLTILO WORLD SELECTの試合。大会の始まりを告げるキックオフの合図が出ました。

ベンチのすぐ脇から試合を見ていると、ピッチの子供達に送る広島の渡辺康則監督の大きな声が耳に入ってきます。子供達のプレーを細かく褒めたり、時折冷静な指示を出す渡辺監督。そんな監督の声のもと、子供達はのびのびとピッチを駆け回ります。ハーフタイム中には猛暑で汗だくの子供達に向かって「水はちょびちょび飲めよ」と、体のことを気遣う細かい気配りも欠かしません。

前半から優位に試合を運んだ広島が後半も気を緩めることなく戦い抜き、5対0で勝利。
初戦からハットトリックを決めた11番大西央人くんは、「海外の強豪が集まるこの大会をとても楽しみにしていました。」と、ハキハキを喋ってくれました。「チームが勝つためには、僕が点を取らなくちゃいけない。」と言う大西くんは、だからこの試合で絶対に点を取りたかった、と逞しい表情を浮かべます。

実は今から2年前、この大会に出場した広島はFCバルセロナと対戦するチャンスに恵まれながらも、0対4というスコアで敗れています。
その記憶を引き継ぐ広島の子供達は、「今年は僕たちが勝ち上がって、バルサを倒したいです。」と意気込みを見せてくれました。

広島とソルティーロの試合を見ていると、隣のピッチから賑やかな歌声が聞こえてきました。同時に行われている開幕戦は、大宮アルディージャジュニア対クラブ・ティファナ。北米予選を勝ち上がって今大会へのチケットを手にしたクラブ・ティフアナは、メキシコからやってきたチームです。

賑やかな歌声の正体は、そんなクラブ・ティフアナの子供達の親御さんたち。手を叩いてラテンのリズムに乗りながら、歌で子供達を応援していました。こんな様子が見られるのも、このジュニアサッカーワールドチャレンジならではの光景です。

今大会で一番の注目といえば、やはりFCバルセロナ。バルサの試合の時間になると、ピッチの周りはたくさんの人で埋め尽くされます。座りながら試合を待つ子供達は、少し頰を赤らめながら、目に光を宿した澄んだ眼差しでバルサの子供達を追います。憧れ、夢、羨望、そしていつか自分が彼らと戦って倒したい、そんな思いが大きな渦を描きながら試合が始まるのを今かと待ち構えます。

今年も参加となったアーセナルFCは昨年、日本の想定外の暑さにとても苦労をしました。体を冷やすものを準備していなかったため、急きょ子供達のソックスを濡らして首にかけるなどして暑さをしのぐも、子供達は体が思うように動きません。
そんな出来事から1年。
スタッフ陣の顔ぶれを全部入れ替えてきたアーセナルは、昨年の彼らとは違うことが試合から伝わってきます。昨年よりも組織的なチーム作りをしてきたアーセナルは、この世代のアメリカでの大会と自国の大会を優勝して、この大会に挑んできました。

ウッディ・アンドリューくんは、昨年グループステージ敗退のきっかけとなった試合で、ゴールキーパーとして出場していました。このままいけば勝利というところ、相手選手が打ったシュートが手からすり抜けて失点。試合は引き分けとなり、苦い思いだけが残っています。
「去年は熱中症になってしまったけど、今年は日本の暑さにも慣れたし、身長もうんと伸びてゴールで手の届く範囲が広がった。今日の初戦は失点ゼロで勝てたし、次の試合も絶対に勝つ自信がある。」と力強く話すウッディくん。目標は昨年の成績を上回ること。ちなみにウッディくん、二度目の来日で慣れたのは暑さだけじゃなく、お箸の扱いもチームメイトの誰より上手だと教えてくれました。
期待のかかる2試合目、アーセナルは北海道コンサドーレ札幌U-12との試合を0対0の引き分けで終えました。ゴールを決められなかった悔しさからアーセナルの子供達はポロポロと涙をこぼしながら、明日の勝利を誓います。

加藤未央の大会公式レポート Vol.1
大会前日


毎年のことだけれど、FCバルセロナの子供たちに会う前は「今年はどんなキャクターの子たちがいるんだろう」「どんなチームの雰囲気なんだろう」「打ち解けてくれるかな」などなど、いつもドキドキします。

来日2日目は、奈良県の生駒市にあるHOS生駒スポーツセンターにて日本のバルサスクール福岡校の子供達と練習試合のイベント。すでにユニフォームに着替えて待つ福岡校の子供達のところへ、バルサの子供達を乗せたバスが到着します。少し硬くなっている福岡校の子供達にバルサの子供達が矢継ぎ早に話しかけ、急速に打ち解けていく子供達。ユニフォームの背中に書かれた「HAJIME」や「HARUKI」などの名前を読みながらお互い自己紹介をしつつ楽しそうにはしゃいでいました。

さぁ、今日のイベント開始です。
練習場のスタンドには、バルサの貴重な練習風景が見られるとのことで(スペイン国内では非公開)集まったお客さんの姿が。みんな一様にカメラを構え、バルサの子供達の登場に沸き立ちます。体をならすアップから入り、グループに分かれてボールを回す練習、そして練習試合というメニューでした。

バルサの子供達の練習を見ているとあることに気がつきます。それは、できるだけボールに触れているということ。練習のメニューが変わるほんの時少しの時間にでもリフティングを始めたり、ボールを蹴りあったり、とにかく常にボールに触れる様子が見てとれるのです。自然にそれをしているバルサの子供達を見て、彼らの強さの秘訣を垣間見た気がしました。

明日からはいよいよジュニアサッカーワールドチャレンジ2018が開幕します。
今日とは違う緊張を持ちながら、明日へと胸が高鳴ります。

加藤未央(かとう・みお)
1984年1月19日生まれ、神奈川県出身。2001年に「ミスマガジン」でグランプリを獲得し、05年には芸能人女子フットサルチームにも所属。07年から09年まで「スーパーサッカー」(TBS)のアシスタントを務め、Jリーグや海外サッカーへの知識を深めた。09年から15年までスカパー! のサッカー情報番組「UEFA Champions League Highlight」も担当。現在は、ラジオ番組「宮澤ミシェル・サッカー倶楽部」などに出演、フットサル専門誌「フットサルナビ」でも連載を持っている。また、ソーシャル経済ニュースメディア「NewsPicks」ではプロピッカーとして活動、スポーツオールジャンルのニュースメディア「VICTORY」でもプロクリックスとして活動している。15年4月からオフィシャルブログ「みお線」もスタートした。 http://ameblo.jp/mio-ka10/